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神戸地方裁判所 平成3年(行ウ)19号 判決

原告

株式会社柳井商店

右代表者清算人

柳井文夫

右訴訟代理人弁護士

松岡滋夫

右同

村上公一

被告

兵庫県地方労働委員会

右代表者会長

元原利文

被告補助参加人

全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

平岡義幸

右訴訟代理人弁護士

深草徹

右同

佐伯雄三

右同

増田正幸

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が兵庫県地労委平成二年(不)第五号事件について平成三年四月二六日付けでした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  被告は、補助参加人全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下「参加人組合」といい、参加人組合柳井分会を「分会」と、分会の組合員を「分会員」という。)の申立てにより、兵庫県地労委平成二年(不)第五号事件について、平成三年四月二六日付けをもって別紙のとおりの救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令の写しは、同年五月一七日、原告に交付された。

2  本件命令は、次に述べるとおり、事実の認定及び判断とも誤っており、違法であるから、取り消されるべきである。

(一) 分会員巽利夫、同小野純一、同三輪恒二、同沢井孝史、同山部修児(以下、この五名を「巽他四名」といい、個別に表示するときは、名前の記載は省略する。)の解雇について

原告は、試用期間中であった巽他四名について、平成二年五月三〇日、同年六月三〇日をもって解雇する旨を告知した(以下、この解雇を「第一次解雇」という。)。

ところで、本件命令は、原告が正社員であった巽他四名を反組合的意図をもって解雇したものと認定しているが、次に述べるとおり、巽他四名はいずれも試用期間中の者であり、また、原告が巽他四名について、本採用拒否又は解雇の措置を採ったのは、巽他四名が業務命令に故意に背く等平素の勤務態度及び勤務成績が著しく不良であったことに加えて、巽、三輪及び山部の三名については、同年五月一八日、勤務時間中に無断で職場を離れて、通りすがりの女性二名に対して破廉恥行為に及んだという非違行為(以下「五月一八日の事件」という。)を理由とするものであるから、本件命令には事実の誤認がある。

(1) 巽他四名の雇用契約上の地位について

就業規則によれば、原告会社における試用期間は六か月であり、原告は、巽他四名を採用する際、試用期間が六か月であることについて個別的にも了解を取っているのであるから、巽他四名はいずれも試用期間中のものであった。

(2) 巽他四名の解雇理由について

巽他四名には、次のとおり、原告会社の社員としての適格性に欠ける点があったので解雇(又は本採用拒否)したものである。

〈1〉 巽、三輪及び山部の三名は、原告会社の西宮浜工場(以下「浜工場」という。)に生コンクリート運搬用のミキサー車(以下「ミキサー車」という。)の運転手として勤務していたのであるが、平成二年五月一八日午後二時ころ、正社員の尾嶋聖二並びに原告会社の下請業者である巴山興業こと巴山龍鎬(以下「巴山」という。)の従業員の木下仁志(以下「木下」という。)及び小田正彦(以下「小田」という。)とともに、無線機等を用いて示し合わせた上で、勤務時間中であるにもかかわらず、無断で職場を離脱して原告会社のミキサー車四台を運転して西宮浜岸壁へ赴き、同所において、若い女性二名が乗車している軽自動車を右四台のミキサー車で包囲して動けないようにした上で、ミキサー車から降りて右女性らの乗った車を持ち上げるようにして揺さぶる等の嫌がらせをした。

右女性らは、やっとの思いで右嫌がらせより逃れ、その後、原告に対して苦情を申し述べてきたため、原告は、被害者宅に赴き、謝罪、示談をするとともに、事実関係を聴取した。

その結果判明した右事件の悪質さに加えて、巽、三輪及び山部の三名は、試用期間中の勤務成績が芳しくなく、官公庁発注にかかる公的事業に関与することの多い原告会社の従業員として好ましくなかったので、原告は、右三名を解雇することにし、同年五月三〇日、前記の解雇通知をしたものである。

〈2〉 小野及び沢井についても、原告会社の秩序を乱し、業務の円滑な運営を阻害する行為が多く、原告会社の従業員として好ましくなかったので、同様に解雇することとし、前記の解雇通知をしたものである。

(二) 分会員辻井富数、同長嶺将敏、同古川裕司、同尾嶋聖二、同岡田稔、同西口千石、同西口記、同渡部達也、同高橋秀明(以下この九名を「辻井他八名」といい、個別に表示するときは、名前の記載は省略する。)の解雇について

原告は、平成二年七月一一日、辻井他八名に対し、同日付けで懲戒解雇を告知した(以下、この解雇を「第二次解雇」という。)。

ところで、本件命令は、第二次解雇が不当労働行為に当たると認定、判断しているが、辻井他八名は、次に述べるとおり、原告が第一次解雇に伴う紛争を団体交渉によって解決したいと申し出ているにもかかわらず、原告会社の被る損害に対して何らの配慮をすることなく、無期限ストに突入し、実力で出荷を妨害し、かつ、スト中に職場を離脱して、原告の信用を毀損したり、営業を妨害する行為に及んだので、原告は、就業規則に基づいて、同人らを懲戒解雇にしたものであり、第二次解雇は正当な懲戒処分である。

(1) ストライキの発生について

分会は、平成二年五月三一日、第一次解雇に抗議して、終了期限を示すことなく、ストライキに入ることを浜工場の工場長である徳山元太(以下「徳山工場長」という。)に対して通告した。

分会員らは、スト通告後、工場の入口を包囲したり、ミキサー車の前に立ちはだかる等してミキサー車の進行を妨害し、出荷を妨害した。

このような分会の突然のストライキ突入により、浜工場では、プラントで練っていた生コンクリートを廃棄処分にせざるを得なくなり、当日、出荷できたのは、積み込みを完了していたミキサー車一台分のみで、その他については、納入ができなかったため、取引先の信頼を喪失した。

(2) 分会の交渉拒絶について

ストライキ当日の平成二年五月三一日に、参加人組合の関係団体である全日本運輸一般労働組合兵庫地方本部の委員長上田正吉(以下「上田委員長」という。)らが、原告会社本社を訪れ、原告代表者(当時は、代表取締役、以下同じ。)及び原告会社常務取締役柳井成池(以下「柳井常務」という。)と面談したが、その際、上田委員長は、第一次解雇の即時撤回を強硬に要求し、原告が話し合いで解決したい旨申し出ているにもかかわらず、「労働者が解雇されて交渉等という悠長なことはやっとれない。もし原告が解雇を撤回しないというのなら一切の交渉はしない。交渉しないのは無論のこと、工場は、ストや裁判、さらには東から北から動員を得てガタガタにしてやるぞ。」等という捨てぜりふを残して退去した。

(3) 辻井他八名の職場離脱及び営業妨害行為について

〈1〉 辻井他八名は、同年六月一日から解雇の日である平成二年七月一一日までの間、徳山工場長が、「信頼関係が回復するまで乗務させられない。」と述べ、浜工場での待機を指示していたにもかかわらず、無断で職場を離脱した。

〈2〉 辻井他八名をはじめとする分会員らは、平成二年五月三一日以降、社外の者を含む数名ずつで、後記のとおり、原告の取引先やその工事現場を訪れ、その現場監督等に対し、「柳井商店の生コンを購入するな。買ったら現場が困ることになる。」等と申し入れたり、原告会社製造の生コンクリートが粗悪品である旨の虚偽の事実を機関紙(柳井分会ニュース)に記載して各所に配付する等して、原告会社の営業を妨害するとともに信用を毀損した(以下、分会員らによるこれらの取引先等に対する働きかけを「本件働きかけ」という。)。その結果、多くの取引先が原告との取引を停止した。

イ 平成二年五月三一日の昼過ぎ及び同年六月一三日ころ、西宮市西宮浜所在の丸晶工業株式会社会所桝築造工事現場

ロ 同年五月三一日に、三ないし四回、有限会社晃陽の阪神パーク工事現場

ハ 同年六月二日午前一〇時すぎころ、西宮市津門所在の株式会社松本組本社

ニ 同年六月中に、四ないし五回、廣川建設株式会社の工事現場

ホ 同年六月六日午後一時三〇分ころ、株式会社大本商店(原告会社浜工場内において)

ヘ 同年六月七日午前一〇時三〇分ころ、出町建設株式会社の西宮市仁川町六丁目先道路工事現場

ト 同年六月九日午前九時ころ、株式会社金谷建材店

チ 同年六月一三日、笠谷工務店株式会社のACORN HILLS計画造成工事現場

リ 同年六月一八日午後二時一〇分ころ、株式会社矢野組の中村邸新築現場

ヌ 同年六月二二日、株式会社矢野組の岡崎邸建築現場

(三) 木下の解雇について

(1) 本件命令は、巴山による木下の解雇が原告の不当労働行為に当たると判断しているが、原告は木下の使用者ではないし、原告が巴山に解雇を要求したり、勧告した事実もない。

(2) 木下の使用者でない原告に、木下の賃金相当額の連帯支払を命ずる本件命令は違法である。

3  よって、原告は本件命令の取消を求める。

二  原告の主張に対する被告の認否及び主張

1  原告の主張1は認めるが、その余は争う。

2  本件命令には、原告主張のような違法は存在しない。

三  原告の主張に対する補助参加人の認否

1  原告の主張1は認める。

2  同2について

(一) 冒頭記載の主張は争う。

(二)(1) (一)の冒頭記載のうち、原告が巽他四名に対して第一次解雇の告知をしたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(2) (一)(1)は否認ないし争う。

(3) (一)(2)のうち、原告主張の者らが女性の乗車した軽乗用車の回りに四台のミキサー車を駐車させ、右女性らに不快感を抱かせたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(三)(1) (二)冒頭記載のうち、原告が辻井他八名に対して第二次解雇の告知をしたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(2) (二)(1)のうち、平成二年五月三一日に分会がストライキをしたことは認めるが、その余は否認する。なお、分会がストライキを行ったのは平成二年五月三一日のみである。

(3) (二)(2)のうち、平成二年五月三一日に上田委員長らが原告会社本社を訪れ、原告代表者及び柳井常務と面談したことは認めるが、その余は否認する。

(4) (二)(3)は否認する。辻井他八名は、職場を離脱したものではなく、原告が分会員らの就労を拒否したものである。また、本件働きかけは、積極的に不買を呼びかけるというようなものではなく、不当解雇を撤回させるために争議中である旨説明した上、争議解決への協力を依頼する趣旨でなされたものである。

(四) (三)は否認ないし争う。

四  補助参加人の主張

1  分会の結成と公然化について

(一) 原告会社においては、平成二年三月末ころから労働組合の結成が準備され、同年五月二二日、原告会社のミキサー運転手全員である一四名(巽、小野、三輪、沢井、山部、辻井、長嶺、古川、尾嶋、岡田、西口千石、西口記、渡部、高橋)により、分会が結成された。ただし、沢井及び山部は三か月の試用期間が経過しておらず、三輪については、三か月は経過していたが、入社が同年二月二一日であったので、二月が端数として算入されず、本採用として扱われないおそれがあったことから、いずれも匿名組合員(使用者に組合加入の告知をしない組合員)として加入した。

(二) 分会結成当日、参加人組合副委員長の長嶋某(以下「長嶋副委員長」という。)をはじめとする参加人組合役員四名と分会長辻井が原告会社本社を訪れ、原告代表者及び柳井常務に労働組合結成通知書を手渡して、分会結成の事実の通知と組合の基本方針の説明をし、併せて不当労働行為をしないように申し入れるとともに、団体交渉申入書を交付して、申入書記載の事項(不当労働行為を行わないこと、労働組合活動に常識的な範囲で便宜を与えること、労働条件については組合と事前に協議し、組合の同意の上実施すること、大企業の中小企業に対する不当な要求には労使協調して行動することを内容とする。)について団体交渉の開催を申し入れた。

これに対し、原告代表者は、不当労働行為をしないこと及び一週間以内に団体交渉に応ずることを約した。

そして、同日夕刻、浜工場正門前において、一一名の分会員が参加して結成集会を開催した。

2  分会員に対する脱退勧奨等について

原告は、次のとおり、分会員に対して脱退勧奨等を行い、支配介入を行った。

(一) 浜工場の次長である大田黒(以下「大田黒次長」という。)は、平成二年五月二四日午後四時ころ、原告会社従業員で安全運転管理者の野瀬利平(以下「野瀬」という。)を通じ、ミキサー車を洗車中の分会員岡田を浜工場三階事務所に呼び出し、「組合を脱退してくれないか。別に組合を作るので、そちらのほうに来ないか。」等と申し向け、分会からの脱退を勧奨した。

(二) 大田黒次長は、同日夕方、勤務を終えて帰宅していた分会員小野に架電して「個人的な話があるから、今から会社に来てくれ。」と言い、小野が断ると、「君が会社をつぶすような組合に入るのはおかしい。他の組合員から脅されたのではないか。だから話をしたいので、すぐ会社に来てくれ。」等と言った。

同日午後七時ころ、大田黒次長は、同じく勤務を終え帰宅していた分会員渡部に架電して「実は困ったことがある。君が組合に入るとは思わなかった。残念だ。」等と言って脱退を勧奨した。

(三) 同年五月三〇日、原告代表者及び柳井常務は、当時匿名組合員であった山部に対し、「お前は組合に入っているのか。運輸一般は会社を潰す組織や。結成集会のときに、組合のほうが、運転手は全員入っていると言っていたので、お前も入っているやろう。入っているとみなす。」等と言って、同人の組合加入の有無を詰問し、組合非難や威嚇的な言動を行った。

(四) 後記のとおり、実質的には原告会社の下級職制の地位にある巴山は、組合結成通知の直後、同人の従業員である木下に対し、「もし組合に入ったらくびや。よく覚えとけ。」と言って警告した上、原告に対する服従を誓う旨の原告代表者宛の誓約書を書かせようとした。右言動が原告の意を受けてしたものであることは明らかである。

(五) 原告は、同年五月二三日、分会結成前の同月二一日ころに分会員西口記の紹介で同年六月一日から運転手として採用することを内定していた岡部広東(以下「岡部」という。)について、紹介者であり友人でもある西口記が分会員であることから、いずれ岡部も組合に加入するであろうことを理由として、採用内定を取り消した。

3  団体交渉の拒否について

原告は、前記四1(二)のとおり、分会の結成当日の団体交渉の申し入れに対して一週間待って欲しいと言っていたが、平成二年五月二六日に至り、徳山工場長を通じて、労働組合の結成は経営上重大な問題なので返答しかねる旨記載した書面を交付し、分会が一週間経過後の同月二九日に、再度、団体交渉を(ママ)申し入れをしたのに対しても、まともな回答を一切しないまま、突然第一次解雇を行った。

第一次解雇に抗議して分会がストライキ入りした同月三一日には、上田委員長らが原告会社本社を訪れて、原告代表者及び柳井常務と面談し、参加人組合の方針について説明するとともに、第一次解雇の撤回を求めたのに対し、右同人らは、解雇撤回には応じられないとの姿勢に終始した。そこで、上田委員長らは、解雇が撤回されなければ、今後もストライキを行ったり、裁判等の法的手段を採らざるを得ず、また、原告会社の取引先や関係官公署に対し、争議解決のための助言、指導をされたい旨の要請も行わざるを得ないことになる旨言い置いて面談を終了した。

4  第一次解雇について

(一) 原告は、平成二年五月三〇日、巽他四名に対し、同年六月三〇日付けをもって雇用契約を破棄する旨の通知書を徳山工場長を通じて交付し、さらに、同年六月七日付け内容証明郵便により、いずれも同年五月一八日の事件を主たる理由として、分会員巽、同小野に対しては、本採用を拒否して同年六月七日付けで臨時従業員雇用契約を解消すること、同三輪、同沢井、同山部に対しては、本採用を拒否して、同年六月三〇日付けで試用期間を終了させることを通知した。

(二) 巽他四名に対する解雇(第一次解雇)は、以下の理由により、不当労働行為に当たる。

(1) 原告は、巽他四名に対し、右(一)記載のとおり二度の解雇通告をしているところ、二度の通告は相互に異なる内容を含み、両者がいかなる関係に立つのか不明である上、二度目の通告では、巽及び小野については、臨時雇用契約の即時解消とし、三輪、沢井および山部については、平成二年六月三〇日をもって試用期間を終了させることとして、異なる取扱をしているが、別異に取扱う理由が明確ではなく、また、二度目の通告では、小野及び沢井は五月一八日の事件には関与していないにもかかわらず、解雇理由としてこの点をあげており、明白な事実誤認がある。さらに、巽他四名は、試用期間を三か月として採用されたものであるところ、二度目の通告では、既に試用期間が経過している三輪に対して、試用期間終了により雇用関係を解消する旨を告知し、巽及び小野については、既に試用期間が満了して正社員になっているにもかかわらず、本採用しないことに決定したことを解雇理由とし、かつ、同人らに対する二度目の解雇通告は、即時解雇であるにもかかわらず、労働基準法二〇条三項、同法一九条二項の手続きを踏んでいない。

なお、巽他四名は、いずれも期間の定めなく採用された正社員であって、右解雇通告にあるような臨時従業員契約をしたことはなく、三か月の試用期間も既に経過している。

このように、第一次解雇は、事実を誤認している上、その手続は杜撰で、矛盾、混乱、強行法規違反がある。

(2) 右(1)記載の二度目の通告では、五月一八日の事件を解雇理由として挙げているが、以下に述べるとおり、右事件は口実にすぎない。

すなわち、右事件は、平成二年五月一八日午後三時ころ、折からの雨のため配車予定がなかったために、待機中に暇を持て余した山部、尾嶋及び木下が浜工場近くの西宮浜の岸壁に行った際に、同所に駐車していた軽乗用車の車内にいた二人連れの若い女性に話しかけていたところへ、巽、三輪及び小田が集まってきたことから、軽乗用車の回りに合計四台のミキサー車が駐車することになり、また、一部の者が車を揺する等したため、気軽に話に応じていた女性らが不快感を示すに至ったものであるが、右女性らが軽乗用車を発進した際には、軽乗用車の後ろの車は進路をあけており、発進を妨げたわけではない。確かに、ミキサー車の外観が一般の人に威圧感を与えることを配慮しなかった点において、やや軽率であったといわざるを得ないが、若者に往々にして見られる若い女性に対する一種の冷やかし的な行為にすぎない。巽らが迷惑をかけたことは大いに反省を要するところであり、会社としても、同人らに厳重注意をするべき事案ではあろうが、解雇をもって処するような事案ではない。

(3) 原告は、巽他四名の勤務態度及び勤務成績が不良で、無断早退、無断欠勤を頻繁に行った旨主張するが、そのような事実は存在しない。

(4) 五月一八日の事件は、当日午後五時ころに女性二名から苦情電話があったことから、原告の知るところとなったものであるが、原告は、翌一九日朝、事件に関係したと思われる巽、三輪及び木下を呼び出し、事情聴取をした上、厳重注意の措置をとり、事件はいったん落着した。ところが、分会結成の通知がなされた四日後の五月二六日に、原告は、右女性らと急遽示談し、事件に関与をした者らの取り調べをして形を取り繕った上で、就業規則を形式的に適用して分会員である巽他四名を解雇した。

右経緯及び第一次解雇には他に正当な理由は見当たらず、他方、巽及び小野が分会員であったことは秘匿されておらず、五月二二日の工場前の集会でも分会員として紹介されていたこと、運転手班長の立場にあった辻井が分会長として分会結成の中心人物であったことから、ミキサー運転手全員が分会に加入しているか、加入するに至るであろうことは、原告において容易に予想が可能であったこと、第一次解雇は、分会結成から間もない時期、特に再度の団体交渉の申し入れの翌日になされていること、前記2記載のとおり、分会結成後、原告が脱退勧奨等の支配介入を行っていたことに照らすと、第一次解雇は、巽他四名が分会員であることを知って、組合に対して打撃を与えるためになされたものであることが明らかというべきである。

(5) 以上のとおり、第一次解雇は、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為に該当する。

5  第二次解雇について

(一) 原告は、辻井他八名に対し、平成二年五月三一日以降、正当な理由なく就労しないこと及び原告会社の取引先に行って原告会社の生コンクリートを購入しないよう申し入れる等の営業妨害をしたことが就業規則所定の懲戒事由に当たるとして、懲戒解雇の通告をした。

(二) しかし、次に述べるとおり、分会が第一次解雇に抗議するためのストライキを行ったのは、同年五月三一日のみであって、同年六月一日以降は、むしろ分会員らが就労要求をしていたにもかかわらず、原告が分会員の就労を拒否していたものである。

(1) ストライキの開始及び終了について

分会は、平成二年五月三一日午前八時三〇分の始業時に、徳山工場長に対し、巽他四名の解雇の白紙撤回を要求するとともに、解雇理由の説明を求めたが、社長がいないと繰り返すのみで、原告に真摯な対応が見られなかったので、交渉を打ち切らざるを得ないと判断し、同日午前八時四五分から、同日終業時までストライキを行う旨を通告をし、同日終業時までストライキを行った。

しかし、分会は、徳山工場長との話し合いに基づき、原告会社の今後の操業に支障をきたさないように、ストライキ開始時にプラント内で練っていた生コンクリートについては出荷を認め、他の業者に依頼して代納をしてもらうことにも、異議を差し挟まなかった。ところが、原告が、他社に代納をしてもらうのではなく、他社のプラントから生コンクリートを購入して、自社製品として受注先に納入していたので、分会は、受注先の現場及び生コンクリートを売った業者に対して、従業員五名が解雇されたこと及びその抗議のためにストライキに入っていることを説明して、ストライキへの協力と紛争解決のための助言、指導をしてくれるよう申し入れることにして、午後から四、五か所の取引先と三社の生コンクリート業者に対する要請行動を行い、午後四時にストライキ切上げ通知をして、ストライキを終了した。

なお、分会は、ストライキ終了に当たり、速やかに解雇を撤回して、労使関係を正常化すること、このまま紛争が続くようであれば、後日再びストライキを含む抗議行動をせざるを得なくなると原告代表者に伝えるよう徳山工場長に申し入れている。

(2) 就労拒絶について

ストライキの翌日の同年六月一日以降、分会員らは通常どおり出勤したが、原告は、浜工場の表門及び裏門を閉ざして分会員らの入場を阻止して、分会員の就労を拒否した。そして、分会が同月五日に、ストライキは一日だけしかしていないのであるから、就労させるよう改めて要求したのに対しても、徳山工場長は、信頼関係がなくなったので今後就労しないで欲しいと言って就労を拒絶した。その一方で、原告は、同月四日から、アルバイトの運転手を雇う等して出荷を再開した。同月六日以降は、開門されるようになり、分会員らの入構は可能となったが、就労拒絶は継続された。

(三) 分会による本件働きかけは、正当な組合活動であって、営業妨害の事実はない。

すなわち、分会員らは、六月一日以降、定時に出勤して就労を要求する一方、会社が応じないことを確認した上で、一部の者を工場に待機させ、残りの者が支援の労組員と三名位の組になって、一日一、二か所の取引先や監督官庁に対して要請行動を行っていたが、その内容は、分会員らの一部が不当解雇された上、他の分会員も就労を拒否されているという事実経過の説明と紛争解決に向けての助言、指導の要請であり、その方法も、現場監督等に面会を求めて、一名が五分くらい穏やかに話すというもので、会社の製品の不買を呼びかけるというものではなかった。

(四) 以上のとおり、辻井他八名について解雇理由がないことは明らかであり、第二次解雇も4(二)(4)に記載した事情に照らせば、反組合的意図に基づきなされた不当労働行為であるというべきである。

6  木下の解雇について

(一) 木下は、平成元年五月一〇日に巴山に運転手として採用された者であるが、巴山は、平成二年六月六日、五月一八日の事件に係わったことを理由に木下を解雇した。

(二) 原告の木下に対する使用者性について

木下は、形式上は、巴山に雇用されていた者であるが、次に述べるとおり、巴山自身が実質的には原告の被用者であって、財政的にも原告の管理下にあり、原告は、木下に対しても、その職員を通じて直接業務上の指示をして、原告の業務に従事させていたのであるから、原告は木下に対する使用者性を有していたものである。

〈1〉 巴山は、木下に対し、原告の従業員と同額の賃金を支払っており、実際の仕事は、浜工場の組織に組み込まれ、原告会社の徳山工場長、大田黒次長、野瀬及び竹田某課長の指示の下で、ミキサー車に乗務していた。

〈2〉 木下が支給された一着目の制服は、原告のネームが入ったものを、原告から支給され、また、木下は原告の親睦会にも自動的に加入していた。

〈3〉 木下の乗務していたミキサー車は巴山所有であったが、車の色は原告のミキサー車と同じクリーム色で、原告所有車両と通しの号車番号がつけられていた。

〈4〉 巴山自身も、他の原告の運転手と同じように竹田課長の配車指示の下でミキサー車に乗務する仕事をしており、巴山が、木下に対し、仕事上の指示をすることはなかった。

(三) 前記2(四)記載のとおり、分会結成後に、巴山が木下に誓約書を書かせようとしたことからも、原告が木下の分会への加入を非常に警戒していたことが窺われること、同じく五月一八日の事件に関与した巴山の従業員小田が解雇されていないのに、誓約書を書くことを断った木下のみが解雇されたことに照らすと、巴山による木下の解雇は、原告の意向で、木下が分会員となったこと、又は分会に加入しようとしたことを理由になされたことが明らかであり、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当する。

7  結論

以上のとおり、原告は、分会を敵視し、その弱体化を図るため分会員に対して脱退勧奨をしたり、正当な理由なく就労を拒否し、さらには、分会員全員を解雇したものであり、これらはいずれも労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為である。

五  補助参加人の主張に対する原告の認否

1  補助参加人の主張1について

(一) (一)のうち、平成二年五月二二日に分会が結成されたことは認めるが、その余は不知。

(二) (二)のうち、辻井から分会結成通知があったこと及び団体交渉の申し入れがあったことは認めるが、その余は否認ないし不知。

2  補助参加人の主張2はいずれも否認する。

3  同3のうち、分会結成通知に際し、分会から団体交渉の申し入れがあったこと、原告が平成二年五月二六日に、徳山工場長を通じて分会に対し、労働組合の結成は、経営上重大な問題なので返答しかねると回答したこと、上田委員長が、平成二年五月三一日に原告会社本社を訪れ、原告代表者及び柳井常務と面談したことは認めるが、その余は否認する。

原告は、団体交渉申入れの内容が抽象的で、議題も定かでなかったことから、交渉に入ることを留保したものである。

4  補助参加人の主張4について

(一) (一)は認める。

(二) (二)はいずれも否認ないし争う。

当時、原告には巽他四名が分会員であるとの認識はなかった。

5  補助参加人の主張5について

(一) (一)は認める。

(二) (二)はいずれも否認ないし争う。

なお、ストライキの終期は明らかにされていなかった。

(三) (三)については、事実関係は否認し、本件働きかけが、正当な組合活動であるとの主張は争う。

(四) (四)は争う。

6  補助参加人の主張6について

(一) (一)のうち、木下が巴山に雇用されていたことは認め、その余は不知。

(二) (二)は否認ないし争う。

(三) (三)は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件命令について

被告が、参加人組合の申立てにより、兵庫県地労委平成二年(不)第五号事件について、平成三年四月二六日付けをもって本件命令を発し、右命令の写しが同年五月一七日に原告に交付されたことは、当事者間に争いはない。

二  分会の結成について

(証拠・人証略)によれば、以下の事実が認められる。

1  原告会社においては、平成二年三月末ころから、ミキサー運転手が参加人組合に個人加盟する等して参加人組合の分会の結成準備がなされ、同年五月二二日に一四名のミキサー運転手(巽、小野、三輪、沢井、山部、辻井、長嶺、古川、尾嶋、岡田、西口千石、西口記、渡部、高橋)により、分会が結成された。しかし、三輪、沢井及び山部の三名については、原告会社への入社日がそれぞれ同年二月二一日、四月五日、四月二日であって、沢井及び山部は試用期間の三か月を経過しておらず、三輪は三か月は経過していたが、二月が端数として試用期間に算入されないで、試用期間中の者として、原告の攻撃の標的とされるおそれがあるとして、分会は、同人らを匿名組合員とし、後記2のとおり、原告に対し、一一名が加入したと告げた。

そして、同日六時ころから、浜工場正門前で、三輪、沢井及び山部を除く一一名の分会員が参加して、分会の結成集会が開催され、浜工場内にいた徳山工場長らがその様子を見ていた。

2  分会結成当日、長嶋副委員長ら参加人組合から派遣された四名と分会長の辻井が、原告代表者と柳井常務に会って、分会役員三名(分会長辻井、副分会長長嶺、書記長古川)の名前を記載した労働組合結成通知書、団体交渉申込書及び「組合結成にあたって」と題する書面を手渡して、分会結成の事実と試用期間中の者を除く一一名が参加人組合に加入したことを告げて、後記基本四項目要求について団体交渉の開催を申し入れるとともに、口頭で組合の基本方針を説明し、併せて不当労働行為をしないよう申し入れた。これに対し、原告代表者は、不当労働行為をしないこと及び一週間以内に団体交渉に応ずることを約した。

なお、原告は、平成二年五月二六日ころ、徳山工場長名の同月二二日付け書面をもって分会に対し、分会三役以外の分会員の氏名を明らかにすることを求めた。

3  前記団体交渉申入書には、不当労働行為を行わないこと、労働組合活動に常識的な範囲で便宜を図ること、分会員の身分、賃金労働条件の問題については、組合と事前に協議し、労使の同意の上実施すること、大企業の中小企業に対する不当な要求には労使協調行動すること等を内容とする基本四項目要求が記載されており、「組合結成にあたって」と題する書面には、参加人組合は、中小企業の正当な要求については、これを支持し、積極的に行動すること、集団的労使関係の確立に務め、紛争処理についての正常化を図ること、中小企業間の共同事業を広めること、労働者のモラル確立に努力すること等の参加人組合の中小企業に対する方針が記載されていた。

三  脱退勧奨について

(証拠略)によれば、以下の事実が認められる。

1  大田黒次長は、平成三年五月二四日午後四時ころ、野瀬を通じて、分会員岡田を浜工場三階の事務所に呼び出し、「組合を脱退してくれないか。別に組合を作るから、そちらのほうに来ないか。」等と言った。

また、大田黒次長は、同日夕方、勤務を終えて帰宅していた分会員小野に架電して、「すぐ会社に来てくれ、話したいことがある。君が組合に入るとは思わなかった。誰かに脅されたのではないか。企業内組合を作るので参加してくれ。」等と言い、さらに、同日午後七時ころ、分会員渡部に架電して「困ったことや。君が組合に入るとは思わなかった。」等と言った。

2  原告代表者及び柳井常務は、平成二年五月二八日、後記認定のとおり、匿名の分会員であった山部から五月一八日の事件についての事情聴取を行った際、「君は組合に入っているのか。結成集会のときに、組合のほうが、運転手は全員入っていると言っていた。お前も入っているやろう。入っているとみなす。会社を潰す組合だ。」等と言った。

3  浜工場における原告会社ミキサー運転手の副班長を務めていた巴山は、原告に対する分会結成通知がなされた直後、自己の従業員である木下に対し、「もし組合に入ったらくびや。よく覚えとけ。」等と言い、原告の指示に従うことを誓う旨の原告代表者宛の誓約書を書かせようとした。

右認定の大田黒次長、原告代表者及び柳井常務の発言は、これらが分会結成直後になされていること、同人らが原告会社の代表者、役員又は職制であること、及びその発言内容に照らせば、原告が、分会を敵視し、分会の弱体化をねらって直接又は暗に、分会からの脱退を勧奨するためにしたものと認められ、労働組合法七条三号所定の支配介入に該当する不当労働行為というべきである。

また、前記認定の巴山の言動についても、それが行われた時期、内容、及び後記六2で認定するとおり、同人が原告会社のミキサー運転手として原告会社の組織に組み入れられ、原告の管理下にあったことに加え、同人が浜工場のミキサー運転手の副班長という原告会社の実質的な下級職制ともいえる地位にあったことに照らすと、同人が原告の意を受けて、分会の弱体化を狙ってなした支配介入であり、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為であると認められる。

四  第一次解雇について

1  第一次解雇の経緯について

(証拠・人証略)によれば、原告は、平成二年五月三〇日、分会員である巽他四名に対し、同年六月三〇日付けで臨時雇用契約を破棄する旨記載した同年五月三〇日付け通知書を徳山工場長を通じて交付し、さらに、いずれも同年六月七日付け内容証明郵便で、五月一八日の事件を主たる理由として、巽及び小野に対しては、即日本採用を拒否して臨時従業員雇用契約を解消する旨の、三輪、沢井及び山部に対しては、本採用を拒否し、同月三〇日付けで臨時従業員雇用契約の試用期間を終了させる旨の通知をし、平成二年六月以降、就労させず、賃金も支払っていないこと、平成二年五月三〇日付けの右通知書には、雇用契約破棄の理由として、「臨時雇用期間経過の従業員について、当会社の生コン及びその他部門について臨時雇用いたしましたが、公的事業内容のため貴方をこれ以上雇用することが不可能です。」との記載があるのみであったので、分会が徳山工場長に解雇理由の説明を求めたが、何らの説明はなかったことがそれぞれ認められる。

2  五月一八日の事件について

(証拠・人証略)を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  平成二年五月一八日は、雨天で出荷が少なかったため、原告会社のミキサー車運転手らは浜工場周辺の路上で待機することが多かったが、同日午後三時ころ、配車予定がなくて暇を持て余した一三号車運転の木下が、西宮浜の岸壁に同車を移動したところ、ドライブに来て岸壁に駐車している二人連れの若い女性の乗った軽乗用車を見かけたので、その横に車を止め、車内から右女性らに話しかけるとともに、一〇号車運転の小田をパーソナル無線で岸壁に来るよう誘った。右誘いに応じた小田が一〇号車を運転して西宮浜の岸壁に向かったところ、七号車運転の巽及び三号車運転の三輪がこれに続いて、右軽乗用車の回りに駐車したため、軽乗用車の前方の海側を除く三方を右四台のミキサー車が取り囲む形になり、また、三輪が三号車から下り、軽乗用車に近づいて右女性らに話しかけたところ、軽乗用車の窓が閉められ、無視された形になったため、三輪が軽乗用車を揺すったこともあって、当初は気軽に話かけに応じていた右女性らが不快感を示し、軽乗用車を発進(後退)させた。これを見て、三輪が直ぐ三号車を移動して退路をあけたので、女性らの乗った軽乗用車は立ち去った。

なお、一三号車には、座席後部のべットに山部が、助手席に尾嶋が同乗していた。

(二)  右女性らは、同日午後五時ころ、電話で原告会社に対し、原告会社のミキサー車四台に取り囲まれた旨の苦情の申し出をしたが、単に運転手らに注意して欲しいという程度の気持ちだけであったので、自己の住所氏名は明らかにしなかった。右申し出を受けた原告会社では、徳山工場長が同年五月二一日に事件に関係したと思われる巽、三輪、木下を呼び出して、事情聴取をしたが、同人らが苦情を言われるようなことをした覚えはない旨答えたので、徳山工場長は、今後気をつけるようにとの注意をするにとどまった。

(三)  同月二二日ころ、野瀬が前同様西宮浜にドライブに来ていた前記女性二名に会って住所氏名を聞き出したので、同月二六日に、柳井常務と野瀬、巴山らが、あらかじめ示談書を作成して右女性方に赴き、右女性らに謝罪をするとともに、各三万円を支払って右女性らと示談をした。

その後、柳井常務は、同年五月二六日から二九日ころにかけて、五月一八日の事件に関係した木下、巽、三輪、尾嶋、山部を呼び出して事情聴取を行ったところ、巽、三輪、山部らは(一)記載のような事実があったことを認めた。

なお、(人証略)中、右認定に反する部分は前掲他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右する証拠は存在しない。

3  第一次解雇の不当労働行為の成否について

(一)  前記のとおり、巽ほか四名に対する解雇通知は二度にわたってなされているが、それぞれの解雇理由に齟齬があるうえ、五月三〇日の解雇通知には、具体的な解雇理由の記載はなく、後記認定のとおり、分会が解雇理由の説明を求めたのに対しても、原告代表者がいないと答えるのみで、説明はなされていないこと、六月七日の解雇通知においては、五月一八日の事件に関与していない沢井及び山部についても、右事件を解雇事由としているのに加え、第一次解雇が分会結成後間もなくで、分会が再度団体交渉を申し入れた直後になされていること、前記三で認定したとおり、原告は、分会員に対して種々の脱退勧奨を行っており、匿名の分会員であった山部に対しても、分会員とみなす旨の発言をしていること、後記五2(二)認定のとおり、原告は、解雇撤回を求めての分会の団体交渉の申し入れを殊更に無視する態度に終始した上、残りの分会員について第二次解雇を行っていること、五月一八日の事件の被害者である女性らから要求があったわけではないのに、あらかじめ示談書を準備した上で、右女性ら宅を訪問して、示談金を支払って示談をしていることに照らせば、第一次解雇は、分会を嫌悪、敵視していた原告が、五月一八日の事件を解雇の口実に利用して行ったものと認めるのが相当である。

(二)  なお、原告は、第一次解雇は、五月一八日の事件を理由に就業規則に則って行なった相当な懲戒処分である旨主張するが、少なくとも小野及び沢井は五月一八日の事件には何ら関与していなかったのであるから、五月一八日の事件は同人らの解雇事由になり得ないことはいうまでもない。

また、事件に関与した者についても、前記認定のとおり、事件のいわば被害者である女性らは、電話で注意を求めただけで、原告の謝罪や示談金の支払いを求めていたわけではなかったこと、女性らの乗った軽乗用車がその場から立ち去ろうとすると、三輪が直ぐ三号車を移動して軽乗用車の退路を開けていることからすると、ミキサー車が軽乗用車を取り囲むようになったのは偶発的なものとも考えられ、女性らに無視されて、同僚の手前照れ隠しに揺すったにすぎないとの三輪の別件訴訟における供述(〈証拠略〉により認められる。)もあながち不自然とはいえないこと、他方、事件に関与し、事情聴取も受けている尾嶋については処分がなされていないことに照らせば、五月一八日の事件は懲戒解雇をもって処断しなければならないような悪質な事件とは考え難い。

もっとも、(人証略)は、小野及び沢井に対する六月七日付け解雇通知に五月一八日の事件を解雇理由として記載したのは、依頼した弁護士が誤って記載したものである旨証言しているが、(証拠略)によれば、巽他四名が申し立てた別件仮処分申請事件においても、同弁護士が巽他四名の解雇理由として五月一八日の事件をあげていることがみとめられ、この事実に照らせば、同人の供述は到底信用できず、かえって、原告が事実関係について十分な調査を尽くすことなく、解雇をしたことが窺われるものである。

(三)  さらに、原告は、巽他四名が分会員であることを知らなかったと主張し、(人証略)は右主張に副う証言をしているが、分会長辻井がミキサー運転手の正班長であったこと(この事実は〈証拠略〉により認める。)、前記認定のとおり、五月二六日に他の組合員を明らかにするよう求めていること、匿名組合員である山部に対し、組合加入の有無を問いただし、組合員とみなす旨の発言をしていることに照らせば、原告は、ミキサー運転手のほとんどが分会に加盟し、又は加盟するに至るであろうとの認識を有していたものと認められる。

また、原告は、第一次解雇の解雇理由として、巽他四名の勤務成績不良をも挙げており、(証拠・人証略)には、右に副う供述及び記載があるが、(証拠略)によれば、巽他四名の上司である徳山工場長が別件訴訟において、ミキサー運転手の勤務状態について特に問題になるような点はなかったと供述していることが認められ、この事実に照らすと、右供述及び記載はにわかに信用することができず、特に巽他四名に解雇を相当とするほどの勤務成績不良があったことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上によれば、巽他四名の雇用契約の内容や試用期間経過の有無等を判断するまでもなく、第一次解雇は分会員に対する不利益取扱いであるとともに、分会の弱体化を狙った支配介入であって、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であることが明らかと言うべきである。

五  第二次解雇の不当労働行為性について

1  第二次解雇について

(証拠・人証略)によれば、原告は、辻井他八名に対し、平成二年七月一一日付け内容証明郵便をもって、同年五月三一日から正当な理由なく就労せず、原告の取引先に行って原告の生コンクリートを購入しないように申し入れる等の営業妨害を行ったことが就業規則所定の懲戒事由に当たるとして、懲戒解雇する旨の通知をしたこと(ただし、西口記は同年八月三一日をもって原告会社を退職した。)、原告は、平成二年六月以降、辻井他八名に対して、賃金の支払いをしていないことが認められる。

2  解雇に至る経緯について

(一)  団体交渉の拒否について

分会が平成二年五月二二日に原告に対し、分会結成通知及び団体交渉の申し入れをしたことは前記認定のとおりであり、(証拠・人証略)によれば、原告は、右団体交渉の申し入れに対し、徳山工場長名の同年五月二二日付けの書面をもって、経営上重大な問題なのですぐには返答しかねる旨の回答をしたままで、その後何の対応もしなかったので、分会が同月二九日に、再度団体交渉の申し入れをしたが、原告は団体交渉に応じなかったこと、同月三一日に上田委員長が原告代表者及び柳井常務と面談し、その際、上田委員長は、参加人組合の方針について説明するとともに、第一次解雇の撤回を求め、解雇を撤回してもらえないと、今後もストライキや裁判等の法的手段を採ったり、原告会社の取引先及び関係官公署に対し、争議解決のための助言、指導を原告会社に対して行うよう要請せざるを得ないことを伝えたが、原告代表者らは解雇撤回には応じられないとの姿勢に終始したこと、第一次解雇以降、分会は、徳山工場長を通じ、原告に第一次解雇の撤回等を求めて再三団体交渉の申し入れをしたが、原告は、一度たりとも団体交渉に応じないまま、平成二年七月一一日の第二次解雇により、ミキサー車運転手全員を解雇したことが認められる。

(二)  分会のストライキ及び原告の分会員に対する就労拒否について

(証拠・人証略)、官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により成立が認められる(証拠・人証略)を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 分会は、平成二年五月三〇日の終業後に、参加人組合の執行委員井上某を交えて第一次解雇に対する対応策を協議した結果、原告に対して解雇撤回を求め、原告の対応如何によってはストライキを行うことを決定し、翌三一日午前八時三〇分の始業時に、徳山工場長に対し、第一次解雇の白紙撤回と解雇理由の説明を求めたが、徳山工場長は社長がいないと繰り返すのみであったので、交渉を打ち切り、徳山工場長に対し、同日午前八時四五分から同日終業時までストライキを行う旨を通告した上で、同日終業時までストライキを行った。

(2) しかし、分会は右ストライキにもかかわらず、徳山工場長との話し合いで、原告会社の今後の操業に支障を来さないように、既にプラントで練っていた生コンクリートについては出荷を認めた。ところが、原告が既に練っていた分以外に、他社から生コンクリートを購入して、受注先に納入していることが判明したので、分会は、徳山工場長に対して抗議をするとともに、受注先の現場と生コンクリート業者に対し、従業員五名が解雇されたこと及びその抗議のためストライキに入っていることを説明して、ストライキへの協力と紛争解決のための助言、指導を要請することにして、午後からは、分会員数名を残して、分会員二、三名ずつに分かれて、四、五カ所の取引先と生コンクリート業者三社を訪れ、右要請行動を行った。その際も、分会は、原告会社が他社に代納を依頼することについては、異議を差し挟まないとの態度を採っていた。

(3) 分会は、当日午後四時にストライキを終了したが、終了に当たり、徳山工場長に対し、速やかに解雇を撤回して、労使関係を正常化することと、このまま紛争が続くようであれば、後日再びストライキを含む抗議行動をせざるを得なくなるので、その旨を原告代表者に伝えるよう申し入れた。その後、分会は、浜工場南門前で集会を行って、翌日から出勤するが、原告に対し、引き続き解雇撤回を求めるとともに、業者に対する要請行動も行うことを確認した。

(4) 翌六月一日以降、分会員らは通常どおり出勤していたが、原告が浜工場の表門及び裏門を閉ざして分会員らの入場を阻止し、その就労を拒否したので、工場前でシュプレヒコールをする等して、第一次解雇の撤回及び就労要求を行っていた。原告が、同月四日から、分会員以外の従業員により出荷を再開し、同月六日からは、開門をするようになったので、分会員らの入構は可能となったが、原告は、ストライキにより信頼関係が失われたとして、分会員らの就労要求には応じようとせず、また、分会は同月一四日に原告に対し、同月一日以降、就労の意思を有している旨の内容証明郵便を発送したが、原告はその受領を拒否した。

(5) 分会は、前記のとおり、六月一日以降、定時に出勤して就労要求を行う一方、原告が就労要求に応じないことを確認した上で、一部の分会員を工場に待機させた上で、原告の主張2(二)(3)〈2〉イないしヌ記載の場所をはじめとする原告の取引先及び生コンクリート納入現場等に赴いて、第一次解雇及び就労拒否について説明するとともに、分会に対する支援等の要請行動を行った。なお、右要請行動は、原告から生コンクリートの出荷があると、分会員及び参加人組合の支援組合員ら数名が、自動車で原告会社のミキサー車を追尾して取引先等に赴き、現場監督等に面会を求めて、うち一名が数分程度、穏やかな口調で分会員らの一部が不当解雇され、他の組合員も就労を拒否されているという事実経過を説明した上で、争議を解決するよう原告に申し入れられたいと依頼するとともに、争議中であるので原告との取引を止めて欲しい旨を申し入れるという方法で行った。その結果、原告会社の取引先の一部には、トラブルを避けるために、原告との取引を中止した者があった。

また、分会は、西宮労働基準監督署及び西宮市に対して、第一次解雇及び就労拒否を解決するよう原告を指導してもらいたい旨要請したり、街頭宣伝車やビラにより、原告を非難する宣伝活動を行った。

なお、(人証略)中右認定に反する部分は、前記他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

3  第二次解雇の不当労働行為の成否について

第二次解雇が、前記のとおり不当労働行為に当たる第一次解雇に続いて行われ、また1及び2で認定したとおり、原告が、平成二年六月一日以降、分会の不当解雇の撤回を求めての団体交渉及び就労要求を無視して、分会員の就労拒否を続けた上、遂には、分会員全員を解雇するに至っていることに照らせば、第二次解雇も、分会員らに対する不利益取扱であるとともに、分会の弱体化を狙った支配介入であり、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であると認めるのが相当である。

なお、原告は、辻井他八名が職場離脱及び営業妨害行為を行ったので第二次解雇を行ったものであり、不当労働行為意思は存在しない旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、六月一日以降、浜工場を閉門して分会員らの入場を阻止し、出荷を開始して閉門をしなくなったのちも、分会員である辻井他八名の就労を拒否していたのであるから、辻井他八名に懲戒事由に該当する職場離脱があったということはできず、職場離脱をいう原告の主張は採用できない。

また、原告の主張する営業妨害等の行為についても、確かにストライキは事前通告なしになされているが、前記認定のとおり、原告は、分会が結成後、再三団体交渉の申し入れをしているにもかかわらず、これに応じないまま、具体的な解雇理由を示すことなく第一次解雇を行い、分会が解雇理由の説明を求めても、原告代表者がいない等と述べるのみで、誠実に対応しなかったのであるから、分会が突然ストライキを行ったことには、無理からぬものがあったということができる。

そして、分会員らが実力で出荷を妨害したとの原告の主張を裏付けるに足る証拠はなく、かえって、分会は、前記認定のとおり、徳山工場長との話し合いで、既に練っていた生コンクリートについては、出荷を認めていたのであり、これらの事実に照しても、分会が行ったストライキが違法なものであったとは認め難い。

次に、原告が違法な営業妨害行為であると主張する本件働きかけについても、これが原告の生コンクリートの不買をも呼びかけるものであり、このために一部取引先が原告会社との取引を停止したことは、前記認定のとおりであるが、分会の第一次解雇の撤回要求に対し、解雇理由の説明さえもしないで、対抗措置として就労拒否を行うという前記認定のような原告の頑な態度に鑑みれば、分会が争議手段として取引先への働きかけを行ったことも止むを得ないものといえ、また、その態様も、前記認定のとおり、強制にわたるものではなく、数名の組合員が納入先の現場等を訪れ、そのうちの一名が、現場監督等に対し、数分程度穏やかに、労使紛争の経緯について説明した上で、協力を要請するというものであるから、相当な組合活動の範囲内にあるということができ、この点についての原告の主張も採用し得ない。

六  木下の解雇の不当労働行為性について

1  木下の解雇について

(証拠略)によれば、木下は、原告の下請けである巴山に雇用されていたところ、平成二年六月六日に、巴山から、五月一八日の事件に関与したことを理由に解雇されたこと及び右解雇後、木下が分会に加入したことが認められる。

2  原告の木下に対する使用者性について

(一)  (証拠略)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 巴山は、昭和六三年九月一日、自己所有のミキサー車を一台持ち込んで、原告会社で生コンクリート運搬業務に従事するようになり、その後ミキサー車を二台増やしたが、巴山所有のミキサー車三台は、いずれも車の色は原告のミキサー車と同じクリーム色で、原告のミキサー車と通しの号車番号がつけられていた。

(2) 浜工場には、試験、出荷及び運搬の三部門があり、会社のミキサー車運転手の所属する運搬部門には、野瀬の下に正副各一名の班長がおり、分会長辻井が正班長で、巴山は副班長を努めていた。

(3) 巴山は、他の原告会社の運転手と同じように、原告会社の配車担当の竹田課長の指示の下にミキサー車に乗務して生コンクリートを運搬していた。

(4) 木下は、巴山から、「賃金は原告に合わせる。勤務時間も原告と同じである。」と言われており、実際の仕事も、浜工場の組織に編入されて、同工場で行われる朝礼にも参加し、配車担当の竹田課長の指示の下で、巴山所有のミキサー車に乗務して原告会社の生コンクリートの運搬業務に従事するというものであり、仕事の内容は原告会社のミキサー車運転手と同じであった。

なお、巴山が木下に仕事上の指示をすることはなかった。

(5) 木下は、原告会社から原告会社のネームが入った制服を支給されたことがあり、また、原告会社の親睦会にも加入し、会費として月一〇〇〇円を給料から控除されていた。

右認定事実によれば、原告は、巴山も支配従属下に置き、巴山を介することなく、木下を直接指導し、その支配従属下に置いて、自己の業務に就かせていたということができるから、原告は、木下に対しても、労働組合法七条の使用者たる地位にあったものと認められる。

3  不当労働行為の成否について

前記のとおり、五月一八日の事件は解雇をもって処すべき事案とは考えられず、また、(証拠略)によれば、木下と同じく巴山に雇用されていた小田は、前記四3で認定したとおり、五月一八日の事件に関与していたにもかかわらず、解雇されていないことが認められ、この事実に照らせば、木下の解雇の真の理由が五月一八日の事件であったとは到底考えられない。また、前記三3で認定したとおり、解雇の前後において巴山が、木下に対し、分会を警戒し、敵視する発言をしており、さらに、(証拠略)によれば、木下は、分会員らと親しくしており、待機中に尾嶋のミキサー車に乗っていることが多かったところ、分会結成後に、巴山から再三尾嶋のミキサー車に乗らないように言われ、解雇後には、「組合やめて帰ってくるのやったらいいが、腕章はめたからくびを撤回できない。」とも言われたこと及び巴山は、木下の解雇後、原告代表者に対し、五月一八日事件に関与していた木下を分会の活動に参加したことを理由に解雇処分としたことを報告するとともに、分会の活動を非難する平成二年七月一〇日付け書面を提出していることが認められる。

以上の事実によれば、原告が、木下が分会に加入したこと又は将来加入するであろうことを警戒して、巴山に木下を解雇させたものと推認できるから、木下の解雇も、他の分会員らの解雇と同様、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であると認められる。

七  結論

以上のとおり、原告の行為はいずれも不当労働行為に該当するので、原告が本件命令の取消事由として主張する点はいずれも理由がなく、他に本件命令を取り消すべき理由は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井昇 裁判官 菅野雅之 裁判官 藤井聖悟)

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